【BOOK】痛みを希望に変えるコミュニティデザイン

建物の内部だけでなく外壁にまでアートが施されている、四国こどもとおとなの医療センターについて書かれた本。間違いなく「ホスピタルアートがとても素敵な病院」なのだけど、ホスピタルアートがただ存在するだけではコミュニティはできあがらない。アートを媒介として、どうコミュニティをデザインしてきたか、が本題。

例えば「霊安室から駐車場までの通路が殺風景で心が痛む」という看護部長の声に対して、スタッフも加わって、亡くなった人たちに花を手向けるような気持ちで壁に花の絵を描く(誰でも描けそうな簡単な絵を模写するだけなので、ハードルも低い)。それが思いがけず、スタッフの心の痛みをケアすることにもつながった——。この病院で行われてきたのは、人々の抱える「痛み」(=問題)を丁寧にすくいとり、アートを通してそれを「希望」(=改善、解決)に変えていく、それによってさらにさまざまな人を巻き込んでいくという、どこまでも人の想いが中心にあるコミュニティデザインでした。立役者は、方向性を明確に示して、あとは現場を信頼しつづけた院長(現・名誉院長)と、専属のホスピタルアートディレクター(著者の森さん)だけど、病院にいる医療従事者や患者さん、さらに病院外の人たちも関わっていて、こういう人たちの声がなければ実現していないことが本当にたくさん。

自分の話を聞いてもらえる、痛みをすくい上げてもらえる、ちゃんと向き合ってもらえる。自分はここにいていい、自分の力が使えている、と思えることってすごく大事だと思うし、そういう場所なら自然といたくなる。コミュニティって人が大勢集まれば何でもいいわけじゃなく、一人ひとりを見つめる目とか思う心があってこそのものだよな、と。