【BOOK】公衆衛生の倫理学

健康第一の社会は、どこか窮屈なところがあるのではないか?いや何を言っているんだ、健康が大事なことは否定できないし、それを国家が守ることも当然じゃないか。そう答えて話を終わりにしてしまうのは簡単であり、そしてまたそれが常識的態度でもある。しかしながら、そのような常識を問い直すことからも、見えてくることがある。これらの素朴な疑問の核には、健康を守る社会の仕組みと個人の生き方の間の、複雑な関係をめぐる問いが潜んでいる。

コロナ禍で私たちは、まさに「健康を守る社会の仕組みと個人の生き方」がぶつかりあう状況を体験したところだ。どちらがいいか、明確な答えがあるわけではない。考え方の指針を置いていってくれる本。

ナッジの倫理を検討した章で、個々の健康増進のための介入と見せかけて、(めぐりめぐって個々に利益があるとしても)社会的利益が目的になっているケースもあるのでは、といった話が印象に残った。「あなたが健康で幸せでいられるように」ではなく「医療費を抑える必要があるから社会のために行動を変えてくれ」というようなこと、医療のみならずさまざまなことがそうなっていて、すごく日本的に正当化されそうな気もしつつ不満の種にもなっていそうな予感がするのだけど、どうなのだろう。言うまでもなく、社会の維持も重要なのだけど。