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雑食系フリーランス 及川智恵/世界には、人の数だけ「面白い」が溢れている。

ひとりごとコラム

まだ見ぬあなたを、素直な気持ちで抱きしめたくて

投稿日:2017年12月24日 更新日:

師走。にぎやかな金曜の夜。

 

都心の駅の構内を歩いていたら、柱の陰で向かい合って話をしている若いカップルの姿が目に入った。

そして、私が彼らに目をやったのとほぼ同時に、女子が男子の腰に両腕を回して、ぎゅっと抱きついた。彼のことが愛おしくてたまらない、というふうに。

 

かわいいなあ。

彼とずっと幸せにね、と遠くからこっそり願った。まるくてやさしい気持ちになった。

 

 

……一緒に生きていけたら、と私が願っていたあの人は、今どこで誰と生きているのかな。

 

 

不意に苦い思い出がよみがえった。風船に針を刺したかのように、あたたかい気持ちがぱんっと割れた。

 

私はあなたと一緒に生きていたいの。あなたはいったいどう思っているの?

それだけが知りたかった。でも、いつまでたっても答えてもらえず、やり取りはいつの間にか途絶えた。

 

子どもの頃は、普通に誰かと生きていけるものだと思っていた。それなのに、どうして今の私はひとりぼっちなのだろう。どうしてあの人と一緒に生きられなくなってしまったのだろう。

 

理由はよくわかっている。

あの頃の私は、「彼と一緒に生きていきたい」というよりも、「彼に生かしてほしい」と思っていたのだ。食わせてほしい、手を引いて導いてほしい、いっそ背負って歩いてほしい、と。

 

生きることに疲れていた時期だった。諦めと閉塞感しかない毎日。もう何もしたくない、と思っていた。

これ以上頑張らなくても、穏やかな毎日が勝手に続いたらいいのに。いっそのこと、ベルトコンベアーでゴールまで運んでもらえたらいいのに。当時の私は、本気でそんなことを考えていた。

もちろん、そんな都合のいい話などあるわけがない。でも、すっかり疲弊していた私は、どうしても欲しかったのだ、ベルトコンベアーが。

 

そのベルトコンベアー役を、私は彼に求めてしまった。あまりにへとへとだったから、安定的に幸せな未来に連れていってくれる存在が欲しくてたまらなかった。

あの時期は彼も疲れ果てていて、助けが欲しかったはずなのに。

 

誰かと生きるということは、当然ながらベルトコンベアーみたいな話ではない。二人で一緒に大きな台車を押しながら歩いていくようなものだ。

しかも、人生は長くて何が起こるかわからないから、台車を常に二人で押していけるとは限らない。例えば、相手が病気やけがで動けなくなってしまったら、一人で台車を押さなければならなくなる。

 

だから、誰かと生きようと決めるには、ちょっと覚悟が要る。いざというときに、相手のために台車を一人で押すことができるかどうか。それってけっこう足腰が強くないとダメだもの。

 

二人の台車を押して歩いていけるだけの基礎体力って、思いやりとか、生計を立てる力とか、困難を乗り越えるためのたくましさとか、環境の変化に適応できる柔軟性とか、早い話が「生きる力」そのものだ。

そして、一緒に生きる人のいない一人の時間は、貴重な筋トレの時間。自分の人生の台車を押せるだけの筋力がなければ、二人分の台車なんて動かせっこないのだから。

そして、一人のうちに鍛えておけば、一緒に生きていきたい大事な人と出会ったときに、その人のことをちゃんと幸せにできるはずだから。

 

一緒に台車を押したくなるような人に、私はこの先出会えるのだろうか。

出会えたらいいな、と率直に思った。そして、その人をただ素直にぎゅっと抱きしめられる自分でありたいな、とも思った。「生かしてほしい」みたいな下心抜きで。

 

そのときは、駅で見かけたあの女の子がしていたような、愛おしさ全開で純粋なハグがいい。まあ、私はだいぶ年を重ねてしまっているから、彼女ほどかわいくは見えないかもしれないけど。

 

夜の街はすっかり冷え込んでいた。私はかじかんだ手をコートのポケットに突っ込んで、待つ人のいない家に早足で向かった。

 

 

 

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