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雑食系フリーランス 及川智恵/世界には、人の数だけ「面白い」が溢れている。

起業・フリーランス ひとりごとコラム

見える仕事、見えない仕事、見ようとすれば見える仕事。

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「直接お客様と接する仕事がしたいんです」

 

起業したい人たちの相談を受けていたとき、たびたびそういう話を聞いた。お客様の顔がちゃんと見える仕事がやりたい、と。

それって1つには「反応が見たい」というのがあるのだと思う。お客様の喜ぶ顔が直接見えたほうが、こちらの喜びも大きくなるし、また頑張ろうというモチベーションになったりもする。

先にいる顧客の顔が見えない仕事、というのがたしかにある。特に組織の中にいたり、下請け的な仕事をしていたりすると、最終的に誰の役に立つのか、実際に自分の仕事が役に立っているのか、わかりにくい仕事も多いだろう。

 

私の仕事もそうだな、とふと思った。

 

今となっては完全な雑食状態の私も、もともとは翻訳者として独立した。製薬会社の新薬開発の書類とか、医学論文とか、そういうものを翻訳しつづけて12年目。今でも、独立当初からお付き合いのある取引先から仕事を頂いたりする。

「翻訳」というと映画や本を思い浮かべる人が多く、私のような医薬分野の翻訳という仕事があること自体、業界外ではあまり知られていないのかもしれない。私の名前が世に出ることもまずない。完全なる裏方仕事だ。

 

で、この知られていない仕事が誰の役に立っているのか。

目の前の顧客は医師や製薬会社だったりするわけで、まずこの人たちに満足してもらわなければいけないのだけど。

 

 

そう、この仕事は最終的に「患者さんの命」につながる仕事だ。

数字1桁間違ったら人を殺せるよ、と言われたことがある。逆に言うと、私が翻訳した論文や書類を使って、新しい薬や技術が生まれて、誰かの命が救われる可能性もあるということだ。貢献度としてはものすごく微力ではあるのだが。

そういう意味では非常に重い仕事なのだけど、患者さんが喜んでいるかどうかなど、もちろん知る由もない。誰からも反応がなくても、当たり前に良い仕事をするのみ。良くなければ仕事が来なくなるのみ。それも無言で。

 

さすがに10年以上やっていると、翻訳した当時は開発途中だった薬が世に出回っていたりする。私の仕事と関連する何かしらのものが、少なからず患者さんのところまで届いていることは予想がつく。

どのぐらいの人たちがそれによって助かったのか…まあ、データを探ればある程度予想はつくのかもしれないけど、さすがにそこまで調べるつもりもない。なんとなくふんわり、誰かしらの役には立っているだろう、と思う。

それでも、そもそも医薬翻訳というものが認知されていないことを考えれば、まさか患者さんが私の仕事に感謝してくれるはずなどあるまい。そもそも翻訳者は黒子だ。存在は見えないほうがいい。

 

 

「たぶん誰かの役に立ってるんだろうけど、よくわからない」

「喜んでもらえている実感なんてまったくない」

 

世の中は、そういう仕事のほうがたぶん圧倒的に多い。

 

知らない仕事は存在しないことにされてしまいがちだ。存在さえも理解されないのであれば、苦労などまずわかってもらえることもない。

そして、役に立っている実感がないと「誰がやっても一緒だよ」と思ってしまいがちだ。実際、代わりのいない仕事ってそんなに多くはないはず。組織なんかだと、代わりがいないとむしろ困るよね。

良し悪しではなく、悲観的になりたいわけでもなく、単にそういうものなのだと思う。

 

そうだとしても、やっぱり私たちはつながりが欲しくて、つながっていることを確認したい。誰かの役に立ちたくて、自分が役に立っているのだということを実感したい。

だからこそ「お客様の顔が見える仕事がしたい」と思ったりもするのだろう。顔が見えるかどうかは、役に立つかどうかとは別の話なのだけども。

 

私はたぶんこれからも、「患者さんの役に立ってるのだ」と信じ込みながら翻訳をすると思う。実際にそうであってもそうでなくてもかまわない。思い込みは最強だし、そういうことも一定数はあるだろうと想像はつくから。

そして、見えにくい仕事の存在にできる限り敏感でありたいと思う。「見えない」「知らない」と「存在しない」はまったく別のものだ。小さなネジ1本であっても、お弁当の緑色の仕切りであっても、必ず誰かの仕事の成果。

 

想像できるかどうか。どこまで想像をふくらませられるか。

想像力って、ものすごく幸せの鍵を握っているんですね。

 

 

※私のいろんな情報はこちらから。

 

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