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人間観察日記

【人間観察日記・14】たったスプーンひとさじのことなのに

投稿日:2017年11月27日 更新日:

ぐるぐると考えていた。

品の良さって、内面からにじみ出る美しさって、いったい何なのだろうか、と。

 

 

 

Vol. 14 たったスプーンひとさじのことなのに

黒いハイネックのセーターに、ライトグレーのパンツ。肩から羽織った、チャコールグレーのツイードのコート。

セミロングの髪を無造作に結んだ彼女は、モノトーンがよく似合う白い肌をしているが、はっきり言って特別美人というわけではない。メイクもかなりナチュラルだ。

 

ランチタイムに入ったカフェレストランで、彼女は私の斜め前の席に座っている。窯焼きピザをほおばる私の目は、私と同世代と思われる彼女にくぎ付けだ。

 

何度も繰り返して恐縮だが、彼女は別に美人というタイプではない。強いて言うならば「平安美人」というか、昔の日本ならモテただろうなあ…という顔だ。

それなのに、なぜか彼女から目が離せない。

美しいのだ、たたずまいが。シンプルなファッションの中に品の良さも漂っていて。

 

サラダを食べながら本を読んでいる姿が、また何とも言えず良い。「ながら行動」って行儀の良いことではないのかもしれないけど、不思議と絵になってしまうのがすごい。

パリのカフェが似合いそう、と思った。日本よりも海外の空気をまとっている気がする。流行を追っかけているような気配がなくて、凛と自分の道を歩いているような雰囲気があって。

 

こういう美しさの源って何なのだろうか。育ちの良さなのか。着ている物の良さなのか。それとも両方なのか、はたまた全然違う何かなのか。

ピザをむしゃむしゃと食べながら、私はぐるぐると考えていた。同じく美人とは言えない私だが、ああいう雰囲気の美しさだったら、今からでも手に入れられるのだろうか。育ちの良さだと言われてしまうと、もはや間に合わないわけだけど。

 

しばらくして、彼女は本を置いてスマホを触りはじめた。

「現代人はスマホばかり触っている」「電車で本を読んでいる人を見かけなくなった」などと言われ、悪と思われがちなスマホ。

正直、彼女を見ていても、本を読んでいたほうが絵になったなあ…などと失礼なことを思っていた。

 

が、1つ気がついた。

彼女にはせわしなさがない。スマホを触っていても、どこか穏やかでゆとりがあるのだ。

 

ゆとり、か。

 

どうしても現代は時間に追われてしまいがちで、物理的にも精神的にも余裕のない人が多い。都会の電車の中なんて、ひとり残らずみんなイライラしているように見える。

でも、品のある人って、たぶん忙しくても日常を適当に済ませない人だ。靴を磨いておくとか、ちゃんと栄養を摂るとか、そういうことを。ボロボロの靴と不健康そうな顔では、やはり品があるようには見えないし、周りの人に不快感を与えかねない。

忙しい中で、たとえ1日5分でもいいから、身の回りに気を配る時間が取れること。その5分が、自分も他人も気持ちよくさせるわけだから。

 

ただ、品を感じるほどのゆとりというのは、時間的な余裕があれば良いだけではない。中身の余裕だって必要だ。時間があれば心にもゆとりができやすいとは思うが、それだけではない気がする。

品のある美しさの奥には、知性とか色気とか、一筋縄ではいかない深みがあるような気がする。ピシッと整っただけのきれいさではなくて、人間の経験や感情が生み出す複雑な美が。人間性に奥行きがある、という表現で伝わるだろうか。

いわゆる「器」ということになるのかもしれない。折れそうにない凛とした自信。何があっても、どんな相手でも、どっしり構えて受け入れられるような雰囲気。そして、そういった豊かさをひけらかさないことも余裕のうち。

 

品の良さや内面からにじむ美しさというのは、きっと、毎日の暮らしにおけるスプーン1杯分のゆとりで作られるのだ。

大量でなくてもいい。1日スプーン1杯だとしても、1年経てば365杯分の積み重ねになる。「育ちが良い」というのは、このスプーン1杯分の積み重ねを、子どもの頃から行ってきた人のことを言うのだろう。

 

「ああ、もう時間がない!」と、ピザを口の中に押し込んで慌てて席を立った私は、移動中の電車の中で、自分の品のなさを思い出して恥じた。ドタバタとした行動ばかりの私には、スプーンひとさじどころか、小指の爪の先ほどの余裕もないじゃないか。

慌ただしく出ていく自分が、周りからどう見えるのか。自分の言動を客観的な視点から省みられることも、きっと品性のうちなのだろうな。

 

品のある女性への道のりはずいぶんと長そうだ。たったスプーンひとさじのことなのに。

 

 

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