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人間観察日記

【人間観察日記・13】1階は建前、2階は本音

投稿日:

人間誰もが、多面体として生きているんだけどね。

 

 

Vol. 13 1階は建前、2階は本音

久しぶりにマクドナルドに入った。

なんとなく足が向かなくなって数年が経っていた。子供の頃はごちそうのような食べ物だったけど、大人になって、他にもおいしいものがたくさんあることを知ってしまった。わざわざ行く理由はもはや見当たらない。

 

それがどういうわけか、「月見バーガー食べたい」とふと思ったのだ。

 

秋、十五夜の頃にいつも販売される限定メニュー。玉子とベーコンとハンバーグという間違いのない組み合わせが、なぜかその日の私を誘惑してきた。

午前11時45分。午後からの仕事に備えて、数年ぶりのマクドナルドで腹ごしらえをすることに決めた。

 

入店してレジの前に進んで、とても驚いた。

店員さんがものすごくにこやかではないか。以前はわりとスピード勝負の大雑把な接客だったような気がしたのだが、ずいぶん印象が違う。

 

切れ長の目をした東洋美人系の女性店員さんは、私としっかり目を合わせて笑顔で接客してくれた。40歳前後だろうか。ぴしっときれいな姿勢で立っていてカッコいい。社員さんかなあ。

久しぶりすぎて、セットメニューの注文に若干戸惑う私を前に、彼女はメニューを指差しながら、サイドメニューや飲み物の注文を丁寧に取ってくれた。

へえ、こんなに接客が改善されたのか。他のレジやキッチン方面を覗いても、無愛想な人はいない。できあがった商品を渡してくれた女性も笑顔だった。

 

なんとなく良い気分になった。階段で2階に上がり、席を探す。12時前なのにほぼ満席だ。私が入店しなくなっただけで、世の中的にはやっぱり人気なのだな。

そして、ここでまた、以前と印象が大きく違う点を見つけて驚く。

 

ほとんどが1人席ではないか。ここまで高かったっけ、1人席の割合。

 

窓の方を向いて座る席、コンセントが用意されて正面にちょっとしたガラスの衝立がついた席、テーブルの1辺だけに椅子がある席。

2人席も少しだけあるが、本当に少ない。家族連れなど大人数向けの席は、地下に別途用意されているらしいのだが、昔はこんなレイアウトじゃなかったよなあ。1人で来店する客がそれだけ多いのだろうけど。

 

そうなると当然ながら、一人で黙々と食事をしている客が大半だ。カウンターに横並びで座っている2人組も一応いるが、8割ぐらいは1人客。

会話をする相手のいない1人客は、みんな揃って下を向いている。スマホを見ながら食べている人も多い。書類を眺めながら食べている人もいる。ものすごいスピードで黙々と口に食べ物を押し込んでいる人もいる。

 

なんなんだ、この無感情、無表情な「のっぺらぼう感」は。

 

いや、私も1人で食事をしているときはそんなものなのだと思う。でも、なぜか少しの不気味さと怖さを感じてしまった。

そういえば通勤電車の風景とよく似ている。日本の都会の縮図ってことなのか、これが。

 

ふと、さっきの店員さんの笑顔を思い出した。とてもにこやかで、姿勢が良くて、目をしっかり合わせて丁寧に接客してくれたあの店員さんの笑顔を。

 

彼女のことを思い出しながら客席を眺めると、ついさっき見た笑顔が幻のように思えてきて、さらに不思議な気持ちになる。いくら店員と客という違いがあるとはいえ、落差がありすぎて混乱する。

自分の周りの景色にここまでの不気味さを感じるのは、店員さんの明るい態度と客席の無表情さがあまりに対照的だからだ、ということに気づいた。

 

本音と建前、という言葉が脳内に浮かびあがった。

 

無表情でハンバーガーに食らいついている人たちも、店を出て職場に戻ったら、最高の笑顔で取引先と接しているのかもしれない。

笑顔で接客してくれた女性店員さんも、仕事が終わって制服を脱いだ瞬間に無表情になるのかもしれない。

 

仕事やサービスのときは、笑顔や調和が求められる。作ってでも笑うし、適当であっても相槌を打つ。建前という名の仮面を付けて、私たちは社会と接する。

仮面が厚ければ厚いほど、脱いだときの疲れは大きい。仮面を脱いだときぐらい、社会と線を引きたくなる。壁を作りたくなる。目の前に窓や衝立のあるマクドナルドの1人席みたいに。そうしないと本音に戻れない。

いやほんとに、あのカウンター的な1人席って、仮面を脱ぐのに最高のつくりをしてるよな。誰にも顔を見られなくて済むのだから。仮面を脱いだ顔を。

 

このマクドナルドの1階には建前があり、2階には本音が集まっているのか。

食事を終えたら、建前の世界に戻っていく。本音の世界は、戦闘前の準備室みたいな感じなのだろうか。

 

たとえ仕事であっても、作り笑いであっても、建前の仮面をかぶって一生懸命笑ってくれている人がいるからこそ、回っている世の中があるんだな。少なくとも今の日本、今の東京には。

本当は、誰もが最初から笑顔で楽しく働けたらいいのだろうけど。仮面の厚さが少しでも薄く済んだほうがラクなのかもしれないけど。

 

なんだか、世の働く人全員に感謝したくなった。1階にいる人にも、2階にいる人にも。

 

チーズ月見とポテトとコーヒーを胃の中に流し込んで、私も戦場に向かう。がんばろうぜ、みんな。私もがんばってくるわ。

 

 

今日のカフェ情報:マクドナルドのチーズ月見。

カフェというか、今回のエピソードの舞台。ぼんやりしているうちに終わっちゃいましたが…毎年恒例の期間限定メニューですよね。二代目だそうです。

玉子とベーコンとハンバーグ。なんかファミレスとかにもありそうな組み合わせだねぇ、冷静に考えてみると。タンパク質と脂質、最高に中毒性があるやつ。

 

-人間観察日記

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