インタビュー企画「生き方事典」、久しぶりの更新です。忘れたわけではないのです……!
※過去の「生き方事典」はこちらからどうぞ。
「生き方事典」8人目は、岩崎有理子(YURICO)さん。
岩崎有理子(YURICO)
2002年にWebデザインの仕事を開始。現在はこれに加えて就職支援の講師、職業訓練校の事務局、キャリアコンサルタントなど、多岐にわたる業務に携わっている。
また、2004年からはYURICO名義で画家としても活動中。2018年「創作表現者展」グランプリ受賞。2019年6月には、バーラストチャンス(下北沢)にて個展「under the sky」を開催。9月末からは、ドラードギャラリー(早稲田)で今年2度目の個展「同じ空の下」を開催予定。
見ての通り、本当にさまざまなことをしていらっしゃる方なのですが、この記事で主にご紹介したいのは、ゆりこさんの「画家」としての側面です。
私はゆりこさんと知り合って5、6年ほど。何度も展示に伺っていますし、作品も購入して自宅に数点飾っています。しかし、何度もお会いしてはいたものの、ゆりこさんご自身のお話ってあまり深く聴いたことがなくて、すごく興味があったのです。
今回は、過去の作品集や、次の個展に展示予定の作品も見せていただきながら、お話を伺いました。そうしたらもう…そんな話ありますか!? っていうすごい物語が出てきまして(笑)。人生ってわからないですね、としか言いようがないやつです。ぜひぜひお読みくださいませ。
この記事は、やってみたいことがあるけれど一歩踏み出せずにいる方や、ずっと続けていきたい好きなことがある方に、特にオススメします。
ファンが増えている自覚はあまりないけれど
ーー個展前のお忙しいタイミングなのに、ありがとうございます!
こちらこそ! 下北沢でお買い上げいただいた絵、持ってきましたよ。
ーーありがとうございます!わあ、改めて見てもやっぱり素敵だ~。
ーー下北沢のバーで個展をされたのが6月でした。そこからあまり間を空けず、9月末から今年2回目の個展がありますね。
下北沢での展示は2年前に予約していたんですよ。今度の展示はその後に決まったんです。昨年「創作表現者展」という展示会でグランプリを取りまして、ギャラリーからのご褒美で個展を開けることになりました。
ーー昨年も7月に個展を開催されていて、大成功だったように見えました。ゆりこさんの絵のファンもかなり増えたんじゃないですか?
うーん、自分ではよくわからないんですけどね……。でも、昨年の個展では、顔見知りでない方々にも絵を買っていただけて嬉しかったです。ギャラリー外の案内をご覧になって、興味を持ってきてくださった方もいらして。ありがたい出会いですよね。
昨年の個展は、たまたま自分の作品を持っていたときにギャラリーに立ち寄ったのがきっかけでした。その絵をギャラリーの方にお見せしたら「個展をやれますよ?」ってその場で声をかけていただいて。こんなこと二度とないかもしれない、と思って開催を決めました。
ーーなんと運命的な……! そうやって声をかけられること自体が十分すごいです。実力が縁を呼んでいる感じがします。
人生を大きく動かした「ある人物」の存在
ーーゆりこさんって、いつから絵を描き始めたんですか?
2004年です。
ーー15年前。大人になってからなんですね。
子供の頃も絵を描くのは好きだったんですけど、そこまで熱心に描いていたわけではなくて。ちゃんと絵をやろうと思ったのは大人になってからですね。2002年頃だったかな、美大の通信課程に入りまして。
ーーあ、描き始めるよりも先に、勉強を始めていたんですね。
でも、そのとき入ったのは「造形デザイン」みたいなコースで。ちょうどその頃Webの仕事を始めたので、絵を学ぶためではなく、デザインの基礎を勉強するために入学したんです。
ーー2002年って、今と比べたらWebはまだまだ……という時期だったと思うんですけど、なぜWebの仕事を始めたんですか?
あの……私、石井竜也が大好きなんです。米米CLUBのパフォーマンスを見て、面白いことをしながら良い歌を歌っていて好きだなあって。
米米CLUBのボーカリストであり、芸術家、映画監督、プロデューサー等として、さまざまな作品を手掛けるアーティスト。
それで、彼のホームページ見たさで自分のPCを買ったんです。そうしたら「PCって面白い!」ってどんどんのめりこんでいって、「PC使って仕事してみたら?」って言ってくれる人まで出てきたんですね。
いろいろ調べてみたら、SOHO・フリーランス向けのポータルサイトが見つかって。掲示板もあって交流もできました。面白そうだったので、「じゃあHTMLやってみよう!」ってWebの世界に入ったんです。
当時は完全に素人だったんですが、このポータルサイトのメルマガを購読していたら、何通目かで「ボランティアスタッフ募集!」っていう情報が流れてきたんです。ボランティアだったら素人でも怒られないかな……と思って応募して、1年後には、そこのWebマスターになってお金をもらえるようになりました。
ーーちょっと待ってください。ゆりこさん、これを始める前は専業主婦ですよね?
そうです。
ーー専業主婦が石井竜也をきっかけにPCにハマり、在宅でWebの仕事を始めたってこと?
そうそう。
ーーなんかすごいドラマが始まったぞ……(笑)。
でも何もわからないで始めているから、「Faxで仕事の指示送るからよろしくね」って言われて、「わかりました!」って電話切ったその瞬間に、車飛ばしてFax買いにいったりもしました(笑)。今となってはネタですよね。そんな状態からスタートして、「デザインってどう作るものなんだろう?」って考えるようになって。それで、美大で勉強することにしたんです。
ーーなるほど。必要なものを揃えていくうちに、美大にたどり着いた感じですね。
で、実は絵を描き始めたのも石井竜也の影響なんです(笑)。
彼は音楽だけではなく絵も描いていて、コンサート中にライブペインティングをやったりもしているんですね。ちょうど仕事を始めて少し経った頃、ファンクラブのイベントで写生大会があったんです。スケッチをしながら本人とも交流できるっていうイベントで、定員10名ぐらいだったんですけど、私、当選しまして。
ーーなんと……!
白いスタジオに、大きな羽の付いた本人制作のオブジェが置かれていて、それをスケッチしました。描き始めたら石井竜也本人が回ってきて、描き方を直接教えてくれました。わあ、カッコいい……とか思いながら(笑)スケッチをして、最後にサインをもらって帰ってきました。今も飾ってあります。
ーーそれはもう、家宝ですよね。
その体験で、「絵を描くっていう同じ土俵にいられるって、すごく素敵なことだ」って思ったんです。浮ついた気持ちのまま、当時個展のプロデュースをしていた知人に、「私、個展やりたいです!」って宣言しました。
ーー……はい?
あの、今だったらもう少し考えると思うんですけど(笑)、当時の私って、「あなたは、何も見ないでばーんと走っていって、思いっきり壁にぶつかってころーんと転ぶんだけど、また立ち上がって走る人よね」って言われたぐらい、無鉄砲というか……わからないから、やりたいと思ったらやる! っていう感じだったんです。
だから、個展をやることがどういうことかもわからない状態で、「やりたいです」って言ったんですね。
ーーそもそも個展のプロデュースをする人と縁があったのも運命的ですが……。ちなみに、「個展やりたい」って言ったときの相手の反応は?
「いいんじゃない?」って言われました(笑)。
ーー(笑)。
普通は「いきなり個展やるの!?」ってなると思うんですけど、その人はそういうことを言わずに面白がってくれて。「ゆりこさんはパステル画がいいんじゃない?」って言われたので、素直にパステルを買ってきて描き始めました。
パステルはほとんど触ったことがなかったんですけど、美大で基礎学習として絵を描く時間もあったので、基礎知識は持っていたんです。絵の具と違って水を用意する必要もないし、描きたいときにさっと描けるのも私にピッタリで。それで、半年後に個展を開きました。
ーーえっ、たった半年後ですか!?
そう、2004年の10月です。
ーーなんという急展開……。石井竜也に人生変えられちゃいましたね。
本当にね。今もアーティストとして尊敬しています。
当時の絵はこんな感じでした。スケッチしたオブジェみたいに羽が出てきちゃうんですけど(笑)。色味は最近の絵と案外近くて、好きなものはあまり変わらないんだなあって思います。
街を描くようになったのは、猫を描くため
ーーゆりこさんと知り合ったのは5、6年前だと思うので、昔の絵は新鮮です。私の知る限りだと、猫の絵を描いていた時期もありましたよね。
猫を描くようになったのは、2014年に別の作家さんと二人展を開いたのがきっかけですね。その方が猫を描く方だったので、私たち二人を表すために、猫が2匹並んだ絵を描いたんです。
そうしたら、この猫の絵がFacebookで拡散されて、知らない人のところにまで届いたんです。「猫の絵を描いてほしい」という連絡が入りました。音楽と語りのための絵本の挿絵を描いてほしいという依頼だったんです。その絵本のために20枚ぐらい猫を描きました。絵本とCDができて、お披露目会もあって。いろいろな経験をさせていただきました。
関わったからには、私も絵本をどんどん紹介しないといけないなと思って。猫つながりで「猫展」(猫の絵が集まる展示)に出展することに決めました。でも、猫展って立派な猫を描いてる人がたくさんいるんですよね。私に同じことはできないと思いました。そこで考え出したのが、「ねこまち3丁目」です。
ーー細いペンでかりかり描いていらっしゃいましたよね。
たまたまあった小さいキャンバスに、モデリングペーストを塗って固めて。乾くのに時間がかかりすぎるから、気温の高い夏しか作れないんですけど(笑)、これを猫展に出したら、とても評判が良かったんです。
(以前購入した「ねこまち3丁目」。小ささが伝わるようにペンを置いてみました)
ーーねこまち三丁目、人気がありましたよね。でも、私が今日受け取った絵もそうですけど、いつの間にか猫がいなくなって街だけが残りました。
そうですね、猫にも風船旅行させたり羽を付けたり、さまざまなバリエーションを付けたんですけど、猫はもういいかなって(笑)。地中海にありそうな白い壁の家とか、日本家屋とか、街のほうにバリエーションを付けていろいろ描いています。
ーーなるほど、街は発展し続けている感じですね。ゆりこさんの描く街って、人もいないし、そこまで街の中を詳細に描き込んでいないじゃないですか。だからこそ想像力をふくらませる余地があって楽しいですよね。
たしかに先日の下北沢の個展のときも、小さな作品を買ってくださった方が、料理やディスプレイと一緒に作品の写真を撮って、「お隣さんができました」って物語を作っていらっしゃいました。街って、そそられる何かがあるんでしょうね。
私自身も街が好きなんです。街というか家ですかね。高架を走る電車からいろいろな家を眺めて、「あの家は4LDKだな、洗濯物はそこに干すのか、あ、ベランダはそこにしかないんだな……」みたいに観察するのが好きなんです。私、子どもの頃は団地に住んでいたので、一軒家のドアを開けて「ただいま」って言うのが夢だったんですよ。大人になって実現しましたけど。一時期、家相まで勉強していました(笑)。
人を描かないのは、メインの建物=私、というイメージだからです。建物が1つだけなら、一人でいる私。他にもたくさん建物が並んでいたら、いろいろな人と一緒にいる私。「人とのさまざまな関わり方」というのが、裏テーマとして絵に入っているんですよね。
個展が続くからこそ、違うものを見せたい
ーー9月の個展の話も聞かせてください。今日は、展示予定の作品を持ってきていただきましたが、下北沢で見たのとまた少し違うような気がします。こういうモザイクっぽい絵って、初めて見るかもしれない。
6月の下北沢とは違うものを出したくて。下北沢では実験をさせてもらって、今度のギャラリーでは「王道」みたいなものを描いていこうと思っています。短期間に個展を2回やることになるわけですけど、だからこそ今回「いい作品を持ってきたね」って言われたいので、新しい作品をどんどん描いています。
ーータイトルとかコンセプトはどんな感じですか?
前回の個展のタイトルは「Under the Sky」だったんですが、今回は日本語で「同じ空の下」というタイトルにしました。同じ空の下にいろいろな人がいて、いろいろなものがあって、いろいろな街があるね、と。
個展用の作品は、下北沢での展示が終わった後、7月から描き始めました。小さめのサイズの絵を30枚以上描くつもりです。キャンバスをたくさん並べて、街並みをつくるような飾り方にしたい。小さいものが並ぶと、窓が並んでるみたいに見えて面白いと思うんです。もちろん、新作だけでなく古い作品も出すつもりです。
ーー注目してほしいポイントはありますか?
マチエール(材質の効果や絵肌のこと)ですかね。「激しすぎる」ってよく言われるんですけど、激しさを出すだけではなく絵としてきちんと作ることの大切さが、今になって少しわかってきました(笑)。
売れるよりも、家族が話題にしてくれるような画家に
ーー今は絵を買ってくださる方もたくさんいると思うんですが、絵はゆりこさんにとって「仕事」ですか?
絵は……私自身ですね。仕事以外の場面で自己紹介するなら、「絵描きです」って言うと思う。でも、そういう立ち位置に変わったのはここ5年ぐらいだと思います。絵を始めた頃はパステルだけでしたが、日本画を習い始めたり、しっかり勉強し始めたのも5、6年前ですね。
絵を始めてからしばらくは、仕事が忙しくなると絵は下火になることも多くて。それでも、年1回は展示に出そう、年1枚は必ず描こう、などと決めて取り組んできました。でも、絵を始めて10年になるところで、「この10年間、何をやってきたんだろう?」って。自分らしい絵は描けないし、「これだ」という作品もない。そこからは、しっかり時間を割いて絵を描こうと強く思うようになりました。
ーー最初の10年で「絵をやめよう」と思ったことはなかったですか?
なかったですね。ダメだなって思うことはたくさんありましたよ。でも、やめるという選択肢はなぜか存在しなかったです。
ーーそうなんですね。これからも絵は続けます?
はい、そのつもりです。将来、子供や孫や家族に「おばあちゃんは絵が好きで、いっぱい描いていたんだよ」って言われるような人になりたいんです。誰に好かれたいとか、偉くなりたいとか、売れっ子になりたいというのではなくて、ちゃんと自分の好きな絵を描いていくのが大事だよね、まずはそれを描けないとダメだよねって、ある時から思うようになりました。それ以来、とにかく楽しんで描けています。
まあ、部屋に絵を広げっぱなしにしたりもするし、家族には邪魔だと思われてるかもしれないですけどね(笑)。
最終目標は「悔しい作品」を超えること
ーーここからは皆さんに聞いている質問です。将来の夢や「ありたい自分」を教えてください。
現実味のない話だと、「光が燦々と降り注ぐお花畑の中にいて、ロッキングチェアに揺られているおばあちゃん」というイメージです。それが自分の理想郷なんだろうなと思っています。
現実的なレベルでは、抽象画を描けるようになりたいですね。これ、2013年に描いたんですが、悔しい作品なんです。日本画の師匠の手を借りながら描いたから。悔しいけどカッコいいから玄関に飾ってあるんですが、これを超えるものを描くのが最終目標かな。
ーー抽象画の難しさって何ですか?
終わりがないことですね。いくらでも加筆できてしまうんだけど、どこかで「これでいいんだ」って決めないといけないから、思い切らないとダメなんですよ。今はまだ迷ってしまうので描けないですね。
それに、今の私にはやっぱり街とか家の絵が求められている部分もあって。「あ、家の絵の人?」「街を描いてる人?」って言われることもあるんです。正直、私自身も街を描き足りていないと思っているので、これで十分と思うまでは描くつもりでいます。
ハズレばかりな気がしても、後から振り返ると幸せ
ーーゆりこさんにとっての「幸せ」って何ですか?
うーん……幸せって全部「後ろにある」ものだと思うんですよ。
ーー後ろにあるもの。
私、その場では幸せに気づけなくて、通り過ぎてから「そういえば幸せだったな」って気がつくんですよね。渦中にいるときは必死すぎて気づけないけど、後から見ると「ああ、幸せだな」って思うことが何度もあったなあって。
ーーああ、たしかに。なかなかリアルタイムで幸せに気づくのは難しいかもしれないですね。
そういう出来事はこれまでもたくさん降ってきているので、私は幸せ者なんだと思います。「ついてないな……」って思うこともたくさんあります。「私、ハズレくじばかり引いている気がする……」とか、「どうしてこんなに嫌なことばかりやらされるんだろう」って思うこともあるんだけど、でも全体的に見るとすごくラッキーな人生なんですよね。
★岩崎有理子さんの「私、これが好き!」
※好みが見えると人が見える…!?取材させていただいた方に、好きなものやオススメのものを伺っていこうと思います!
ジム
医者に「やせなさい」と言われたのがきっかけでジムに通っています。自分でも「やせなければ」と思っていたんですが、なかなか行動できなくて。しばらく渋っていたら、今の勤務先の社長にすすめられて、社長が通っているジムにお試しで行ってみることにしました。音楽に合わせて体を動かすようなエクササイズをしています。
ジムに通い始めてから、以前よりも体調が良いように感じます。やっぱり運動って大切なんですね。ちょっとしたときに走るのが苦ではなくなったので、「あ、走ってる。今まで絶対走らなかったのに」って夫に笑われています(笑)。
これからも細々と続けるつもりです。仕事をしながら絵を描き続けようと思ったら、健康第一ですから。
★おしらせ
ゆりこさんの個展「同じ空の下」は、9月27日(金)~10月1日(火)、早稲田のドラードギャラリーで開催です。ゆりこさんが在廊されている時間帯もあるので、この記事を読んでご興味お持ちになった方は、ぜひご本人に会いにいってみてください。私もどこかでお邪魔する予定です。
ドラードギャラリーは、私も何度も伺っていますが、「買わせよう」オーラ出しまくりの怖いギャラリーでは全然ないのでご安心ください。建物が個性的でまた素晴らしいのよね……。
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YURICO個展 〜同じ空の下〜
9月27日(金)〜10月1日(火)
場所*ドラードギャラリー(東西線早稲田駅徒歩3~5分)
東京都新宿区早稲田鶴巻町517 ※地図はDMの画像をご参照ください。
時間*12時〜20時(最終日は18時まで)
YURICOさん在廊
平日*18時以降(なるべく早く駆けつけます)
土日*なるべくずっと居ます。
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