ドビュッシーのアラベスク第1番が大好きで、中学3年のときにピアノの発表会で弾いた。
その頃、学校の絵の課題で、この曲のイメージを描いた記憶がある。自由課題で何を描いたら良いのかわからなくて、音から浮かんでくるものを空想で。
絵は苦手だったので、作品はイメージにまったく追いつかなかったのだけど、私の頭の中では、現実離れしていてちょっと抽象的なきらきらした映像が見えていた。
私の中でアラベスクという曲は、何て言えばいいのかな、1枚膜に覆われているというか、鮮明な映像ではなくてベールに包まれているような、光に包まれているような、なんとなく幻想的なイメージのある曲だ。
現実的で地に足のついた感じではなく、少し宙に浮いているような。はっきり見えない何か。ふんわりした何か。現実の向こう側にある何か。あ、これはあくまで音の響きの話なので、実際に曲の背景はわかりません。
写真を始めて、なぜか多重露光というものにハマったときに、アラベスクとその絵のことをふと思い出した。
幻想的なものや抽象的なものに、何だかよくわからないけど惹かれる。
絵は今でも苦手だと思っているし、あまり描きたいとも思っていない。でも、写真はシャッターを押せば撮れる。デジタルカメラの時代になって、フィルムを気にせず撮り放題になった。
真っ白いキャンバスに自分で0から筆を置いていくよりも、世の中の景色の中から好きなところを切り取れるカメラのほうが、何となく私の性に合っているというか、素直に楽しい。
でも、ただ景色を切り取るだけではなく、現実と現実を重ねたら非現実の幻想が出来上がる、というのはさらに楽しい。
この世にあるものを切り取って、新しい世界を自分で創り出していく。なんて夢のある話だろう、と思う。全然違う写真を重ねあわせることで生まれる、別の美しさ。しかも、可能性はいくらでも無限にある。
私たちの住む世界は、たぶん1つのようでいて1つではない。
アートとは、そんな当たり前のようで忘れていることを思い出させてくれるもの。