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人間観察日記

【人間観察日記・11】沈黙との戦いはいつまで続くのか

投稿日:2017年9月4日 更新日:

沈黙、怖かったなあ。今でもたまに怖いけど。

 

※珍しく自撮りを載せてみる。

 

 

Vol. 11 沈黙との戦いはいつまで続くのか

髪を切った。

9月に入ったばかりなのに、残暑もなく秋がやってきたことを期待させるような、涼やかな風の日に。

 

いつもの美容室、いつもの美容師さん。通い始めて、もう何年になるだろうか。

あれこれオーダーしなくても、そのときの気分で簡単な相談をするだけで、良い具合にカットしてくれる。どこか遠くに行かれたらどうしよう、と本気で思う。

「ちょっとイメージを変えたいです」と伝えて、カットの方向性が決まったところで、シャンプー台に移動する。

 

アシスタントの男性が、準備を整えてシャンプー台で待っていた。

まだ20歳前後だろうか。きっと学校を卒業して間もないぐらいだと思う。さすが美容師の卵、髪の毛の色がおしゃれだ。何色って言ったらいいんだろうか。アッシュ系ってこういう色かな。わかんないけど。

普段からメガネをかけている私は、メガネがないと人の顔も認識できないほど視力が悪い。だから、シャンプーやドライヤーのときだけ手を貸してくれるアシスタントさんの顔はわからないし、どうしても覚えられない。申し訳ない。

 

そんなわけで、髪の色と若さしか認識できない彼に、シャンプーをしてもらうことになった。

 

「なんか良い天気になってきましたね」

シャンプーの作業が始まると同時に、彼は話し始めた。朝のうちに降っていた雨がやんで、日が差してきた頃だった。

「そうですね、でもまだ半袖だと寒いぐらいだよ」

あまりの寒さに途中の道で長袖のカーディガンを羽織った私は、そう返した。

 

天気の話は無難だ。客であるこちらとしても、返しやすい。

とはいえ、今日の天気の話だけでは長持ちしにくい。シャンプーが終わるまで間が持たない。

 

彼の話は、そこから連想ゲームのごとく怒涛の広がりを見せた。

夏休みの話、雨が多かった話、温泉に行ったら涼しくなったせいで露天風呂の湯気がちゃんと見えたっていう話、涼しいと快眠できるっていう話、秋は食べ物がおいしいねっていう話、時間が経つのが早くてあっという間に年末になるねっていう話、それどころか東京オリンピックあっという間だよねっていう話。

こうして並べてみると、関係がないようにして何となくつながっている。見事だなあ。美容師さんも話術があったほうがいいもんね。

 

とはいえ、シャンプー中の短時間で、まさか今日の天気から2020年のオリンピックまで行くとは思わなかったし、あと個人的に1つだけ気になったことがあった。

 

沈黙が怖すぎるゆえに、必死で連想ゲームをしているように聞こえたこと。

 

いや、あくまで私の感覚なので、彼はそんなつもりではなかったのかもしれないけど。

彼の話は普通に面白かったし、別に苦痛だったわけでは全然ない。でも、そこまで沈黙を恐れなくていいのに、そこまで頑張らなくていいのに、と感じてしまったのだ。

 

私は美容室のシャンプー中やカット中、黙っていられても平気なクチだ。というか、普通にプライベートで誰かと一緒にいても、黙っていることがわりとある。

勘違いされることがよくあるのだが、機嫌が悪いわけでもなく、つまらないわけでもなく、ただ黙っているだけだ。たまたま言うことがないから静かなだけ。

常に沈黙に耐えられるわけではなくて、私もやっぱり「何か話さなきゃ」と思うことはあるのだけど、昔と比べたら耐えられるようになったなあと思う。自ら沈黙を選ぶことさえ増えたわけだし。

 

沈黙が苦手だという人は多いと思う。じゃあ、沈黙に耐えられるようになる条件って何なのだろうか。

 

ひとつ、相手を信頼できること。

ひとつ、自分を信頼できること。

 

この人となら、気を遣って話そうとしなくても大丈夫、黙っていても大丈夫、と思えるかどうか。親しい間柄なら、当然ながら相手を信頼しやすいから、沈黙が流れても大丈夫そうだ、という判断がつきやすい。

かといって、あまり親しくない相手のことは信頼できないから、沈黙はやっぱり無理…というわけではない気がする。

こちらが悠然と構えていれば、空気に安定感が漂って、沈黙の気まずさをある程度消せるのではないかと思う。実際、「あ、なんかこの人とは黙っていても大丈夫そう」と早いうちから感じさせてくれる人って、たまにいる。

 

「楽しませなければ嫌われるかも」とか、「黙っていたらつまらない奴だと思われるかも」とか、そういう不安を乗り越えたところに、心地良い沈黙があるような気がする。

そう考えると、「沈黙に耐えられるのは大人の証」という仮説が立つように思う。沈黙を恐れないというのは、ある程度人生経験を積んで、気持ちに余裕のある人ほど、難なくできることなのではないだろうか。

実際、必死で会話のネタを連想している彼の様子を、私は「なんか若いなあ」と思ったのだよな。

 

でもちょっと待てよ。

もしかしたら、私が年を取っただけなのかもしれない。必死で会話のネタを探す体力がなくなって、エネルギーをケチっているだけなのかもしれない。

どっしり落ち着いて見えていればまだいいけれど、ただ単に老け込んで見えていたらそれはちょっとまずい。他人に関心がないと思われるのも心外だ。私は仙人とかではないし、悟りの境地に至りたいわけでもない。

 

彼を見習ってみてもいいのではないだろうか。

 

私も今度から、もう少しいろんなネタを周りの人に振ってみようか。連想ゲームを駆使して。

今までしたことのなかったアシンメトリーなショートボブに仕上げてもらってご機嫌な帰り道、ふとそんなことを思った。

 

 

今日のカフェ情報:グッドモーニングカフェのピザ(ディアボラ)。

都内各所に店舗があるグッドモーニングカフェ。

私はほとんどランチで利用していて、おすすめは窯で焼いてくれるピザ。ディアボラはサラミが辛いんだったかな、シンプルな中にピリッとした辛さがあっておいしいのです。

なんか、一度気に入るとずっと同じのを頼んじゃうんだよねぇ、私。違うのも試したいと思いつつ、いつもこれに落ち着いてしまいます。

グッドモーニングカフェのディアボラ、1300円。

 

 

-人間観察日記

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