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人間観察日記

【人間観察日記・10】良い店に共通するたった1つの条件

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人間とは、ゆらぐ生き物である。

 

 

Vol. 10 良い店に共通するたった1つの条件

「おはようございます~暑いですね~」

先に会話を始めたのは、70代ぐらいのマダムだった。少し腰が曲がっていて、脚がやや弱そうに見える。暑い中を買い物でもしてきたのだろうか、うっすら疲れている様子に見えた。それでも、笑顔と白髪がなんだかとても美しい。

30代ぐらいの女性の店員も、「おはようございます、本当に暑いですねぇ」と笑顔で返した。

 

セルフサービスのカフェのレジ前。そのマダムは、すっかり日々の習慣になっているかのように、するっとアイスコーヒーを注文した。

女性店員のほうも、いつものやつですね、と言わんばかりの顔でさらりとアイスコーヒーを提供した。グラスにストローを刺し、飲み口の側だけストローの袋をかぶせたままの状態で。

「いつもありがとうございます」と店員が言うと、マダムも「こちらこそ、いつもありがとうございます~」とゆっくりした口調で返した。

そして、「何もあげるものないから…」と、マダムは笑いながらストローの飲み口にかぶさった袋を店員に手渡した。「あら、じゃあ大事にとっておきますね~」と、店員も笑った。

 

年配の常連客にうまく対応できる店は良い店だと思っている。

 

特にチェーン店に多いが、接客に味気なさを感じるケースというのは、「マニュアル感」と「スピード感」が原因ではないかと思う。

マニュアル通りの接客は楽だ。頭も心も使う必要がない。余計なことを考えなくて済むから、時間も手間もかからない。淡々と機械のように、毎回同じ対応をすればいいだけ。

いちいち細やかに1人1人の顧客に接することがないので、接客自体に要する時間も節約できる。マニュアル化された接客は、いわばベルトコンベアー式の流れ作業。慣れれば慣れるほどスピードを出せるわけだ。効率はとても良い。

 

例えばオフィス街の忙しい店であれば、「丁寧な接客」よりも「急いでほしい」というニーズが上位に来る場合もあるだろうから、マニュアル化されたスピーディな接客が絶対に悪いとは思わない。

しかし、このマニュアル的なスピード、お年寄りには通用しないことが多い。

 

そもそも人間は、年を取るとスピードが出せなくなる。話の内容を理解するにも時間がかかるし、財布を取り出してお金を払うような普通の動作も遅くなる。

それ以前に、相手の言うことが聞きとれなくなったりするから、聞き返す時間までかかってしまう。若い頃には必要なかった時間が、年を取ると必要になってしまうわけだ。

さらに、セルフサービスのお店であっても、足が悪くて食器を運べない…なんていうケースも生じる。流れ作業なんてとんでもない、顧客の話を聴いたり、相手の動作を待ったり、臨機応変に手を貸したり、マニュアル外の対応が増える。

 

接客に慣れていない店員や、接客をベルトコンベアーだと思っている店員、あるいはとにかく回転率を上げることにしか目がないような店員には、お年寄りの接客は相当ストレスだろう。いつものペースで物事が流れていかないのだから。

お年寄りのペースでうまく接客できるのは、接客をちゃんとコミュニケーションとして捉えている店員だけだ。

相手の話を聴き、相手のテンポに合わせ、相手のニーズを把握して動く。当たり前といえば当たり前だが、まあ、コミュニケーションというのは往々にして面倒も含む。相手を受け止めるだけの余裕が、接客する側にあるかどうか。

 

さらに年配の常連客となると、ちょっとした世間話をしたい人が多い印象がある。一人暮らしだったりすればなおさら、誰かに会い、誰かと話す時間自体が、貴重な楽しみだったりもするだろう。

自分のテンポを受け入れ、会話に柔軟に対応してくれる店員が多い店ほど、客としては安心して常連になれる。だから、年配の常連客が多い店は雰囲気が明るくて接客上手の良い店が多い、というのが私の見立てだ。

 

お年寄りが来店することで、普段は慌ただしいレジ周りの空気がふわんと温まる瞬間が好きだ。時間の流れが緩やかになっていくさまを感じるのが好きだ。そこで発生する和やかなやり取りを眺めるのも好きだ。

選択肢があるなら、できるだけそういう空気感を味わえるお店を選びたいと思う。効率を極めた接客というのもすごいと思うけど、どこかに「あそび」というか、ゆらぐ余地が残っていると少し安心する。

 

年を重ねることって「ゆらぎが増えること」なのかもしれない。一直線にまっすぐ走ることができなくなって、立ち止まる時間や寄り道する時間が増えて、一定のペースを守りきれなくなることなのかもしれない。

本当は、最初から人間は直線でできていない。だから、効率やスピードばかりを求めた直線的システムでは、どうしてもひずみが生じる。若いうちならまだ対処できるとしても、年齢とともにゆらぎの部分を隠せなくなっていくのだろう。

 

だとすれば、もともと持っていた人間の性質が年齢とともに顕著になるだけで、別に何も変わっていないのかもしれない。

 

そう、だから本当はお年寄りに限った話ではない。誰もが多かれ少なかれゆらいでいて、そのゆらぎに対応できるお店ほど多くの人を満足させられる、きっとそれだけのことなのだ。

 

 

今日のカフェ情報:タルタートのモーニング。

チェーン店での出来事を書いたわりに、チェーン店ではないお店をご紹介(笑)。

吉祥寺のアトレの1階。モーニングの時間は9時から1時間だけのようですが、フルーツがごろごろ乗ったグラノーラとヨーグルト、コーヒー(10時までおかわりOK)が頂けます。

ディナーにも行ったことがありますが、お野菜多めでおいしかったです。ランチは知らないけど、たぶん全時間帯でおすすめ&使い勝手の良いお店。

タルタートのグラノーラセット、780円。

 

 

-人間観察日記

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